父は鉄ちゃん

Train


2009年に亡くなった父は その世界では名前をそこそこに知られた鉄道マニアだった。。
家業の電気屋をおろそかに、カメラ抱えて機関車を追いかけまわしていたので、家族から疎まれていたのは確か。機関車なんかどこが面白いの?ただの機械のかたまりが動くだけやんか・・・私はそう思っていたし、今でも鉄道マニアの気持ちはよくわからない。私は機械を観察するより人間を観察するほうがよほど面白いと思う。

父の名前を検索すると、これまでに出版した機関車の写真集がでてくる。
亡くなる1か月前に最後の本が出版された。
「達人が撮った鉄道黄金時代」というサブタイトルで「軍機保護法下の汽車・軽便」という、定価7千円もする写真集である。JTBパブリッシングという出版社から販売された。
「誰が読むの? 誰が買うの?」 はてなマークばかりである。

10年前、実家が火事になったとき、20キロはあるような蒸気機関車の模型が盗まれた。
火事場泥棒というやつで 夜中に焼け跡から持って行かれた。
父が10代のころ自分で設計図を描き、近所の鉄工所に頼んで部品を一つ一つ作ってもらって数年かかって完成した自製の蒸気機関車デゴイチというものだった。
盗難届は出したが、いまだに出てこない。死ぬまで父は残念がっていたが、あれはどこかの鉄道マニアのそばに飾られているのだろうか?

こんな川柳がある
「形見だといわれてガラクタ捨てられず」
興味がないものにとっては あげるといわれても困ることがある。
遺品として残された父の本や機関車の模型など、いまだ家族や親族からの貰い手がなく、私の家に溜まっているのだが、時が経てば、父の歴史をたどる日が来るかもしれない。

あの大きくて重いデゴイチが残っていたらどうだろう?
鉄道博物館にでも寄付できたらよかったのになあ。
父はあの世で蒸気機関車の音を聞いているのかなあ・・・

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社交ダンス

結婚したての頃、夫と共通の趣味を持とうと思い立った。
夫は結婚前からボールルームダンスとやらをやっていた。社交ダンスというと風俗営業に入るらしく、夫は飲んで踊るようなダンスとは一線を画していたが、どっちにしても。男女がペアを組んで踊るものである。

私は運動はキライ、どちらかというと、動かずに読書や映画を楽しんだり文化的なことの方が好きだった。
運動神経は無く 体力も筋力もない。結婚した相手がダンスをするなんて全く予想外のことだった

タダでダンスが習えるならそれもいいかと、夫の趣味に合わせたものの、ハイヒールを履いて片足で立ったり、後ろ向きに歩いたり、これは筋力がないと なかなか大変。
わが家の6畳の部屋ではターンばっかりで、ステップは踏めないことがわかり 団地の集会所を借りて練習をした。「どんくさいなあ」と言われながら 練習はすぐ飽きるし、集会所の使用料もなんとかしたいし・・・、考えるうちに案を思いついた。

ローカルの新聞に呼びかけて、社交ダンスのサークルの会員募集をしたところ、4組のご夫婦が集まった。
さすが大阪、そんなカップルがいるんだと驚いた。
みんなと交流しながら音楽をかけて踊るのは楽しかった。どんくさい のは私だけではなかった。

そのうちにサークルの知名度が上がり、2年後には会員が40名を超えた。
私は、受付をしたり会費を集めたり、会場のセッティングや後片付けをしたりと
踊る暇がなくなってきた。
でも、なぜかそれが楽しかった。人が集まってくるのが何より楽しく、自分が踊ることより 仲間つくりをすることの方が楽しいと感じることに気が付いた。

ダンスはナルシズムの世界、自分を美しく見せ、身体の動きの快感を得る・・・、特に社交ダンスは男女の性別による分担があり、男性がリード役、女性はフォロー役である。そして形が決まっているので、好きなように踊ってはいけない。好きなように踊れば、ダンスパーティーで 誰とでも踊ることはできない。
ジルバはジルバのステップ、ワルツはワルツのステップがあり、ダンスパーティーで「踊りませんか?」と誘われたら、男性のリードに従った動きをしなければいけないのである。

自分の足の筋力や腹筋で自分の体を支えられない女性は、男性に重みをかけるので嫌がられる。
ハイヒールでしっかり動けない女性は「重くてかなわん」と、パーティーでは壁の花になる。
よほどの美形であれば別だけど・・・

女性の側から言わせれば、強引なリードで振り回したり、体を寄せて締め付けてくるような男性はお断りである。

双方の要求が叶い、気持ちよく踊れるのは どちらの技量もそこそこでないと成立しない。
異性との交際だけを目当てにやってくるヤカラは ダンスの動きで分かり 女性に敬遠されてしまう。
キャバレーのダンスとは異質なのである。

ついに、私は体力的にも限界を感じて 10年足らずで 夫と共通の趣味を持つのをやめた。
そして喧嘩が減った。

腹話術に出会って、思うように創作し、思うようにしゃべり、人を笑わせる芸に魅了され
多くの出会いに ウキウキするようになった。

パートナーに、自分の動きを制限されるのは窮屈で御免である。

腹話術のパートナーたちは, 私を開放し笑わせ のびのび生き生きさせてくれる。

夫はまだあのトシで メタボにならず、背筋を伸ばして社交ダンスの技を磨いている。 まっ、いいか!

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窓が開かない

車の運転席の窓がモーターの故障で開かなくなっている。
一度モーターを取り替えたがもう寿命らしく、いったんあけると閉まらなくなることがたびたび・・・
腹話術の公演は、アシスタントをしてくれる女性が、かっこいいワゴンで乗せていってくれるので支障はないのだが、近隣で乗る際にはちょっと不自由である。
 夫はゴルフで使うくらいだが、例の辛抱強い性格のおかげで、運転席の窓を開けないまま乗っている。
私にも 「開けると閉まらなくなるから窓を開けるな」 という。
ゴルフ行きでETCを利用する夫は窓を開けなくてもそれほど困らないようだが、私は駐車場でちょっとカッコ悪い。駐車券を取る時も、お金を払うときも、いちいち外に出る。
運転が下手なせいで発券機に寄せて車を止められないのかと思う人もいるらしく、気を聞かせて係員の人が飛んでくることもある。代わりに券を取ってくれ、窓から私に渡そうとする。
これが一番かっこ悪い。「すみません。窓が壊れて開けられないんです」 と言いながら、ドアを開けて受け取るのである。
もう1年になるが、何とか窓を開けないでもいけるものだ。

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花より団子?

病室の窓から満開の桜が見えた。

86歳で風邪をこじらせて入院した父が、あっという間にベッドで寝たきりの介護度五の状態になってしまった 。

メガネをはずし、入れ歯をはずし「何もしゃべりたくない、何も見たくない」と無気力になった父を見ると切なかった。
来年の春はあの桜の場所に行って満開の花を見せてやりたい、絶対に見せてやると心に決め
毎日病院に行ってリハビリを促した。「五秒でいいから手を動かしてみて」・・・・次は腕を、次はつま先を・・・と、ベッドの脇で1,2,3,4,5と数を数えた。 そうして日が経ち、車椅子に乗れるようになり、支えると歩けるほどになった。

 桜の季節が巡ってきたので、嬉しくて桜見物に誘った。

父いわく「桜なんか見たってしょうがない。わしは中華そばを食べに行きたい」。

がっくりきたけど、そんな父だから枕元でヤイノヤイノとリハビリをさせる娘に従ってくれたのかもしれない。

父は 退院後、94歳で亡くなった。カップラーメンを3個机に残して。

まもなく3回忌、桜の季節にラーメン大好きの父を思い出す。

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それって親切?

電車で買い物に出かけることになった。
読みかけの週刊誌を、移動中に読み終えて降車駅で捨てようと思って持って出た。

電車の座席に座って早読みをしていると 隣りに座っていた70代くらいの女性が声をかけてきた。
「あそこのドアの所に立ってる男の人、杖を持って立ってはるでしょ?なんで座わりはらへんのやろ」

見ると、白髪でかなり高齢の男性が片手に杖、片手に電車のドアに近い所の手すりを持って立っている。
車内には、男性の近くに数箇所空いた席があり座ろうと思えば座れる。
少し離れている私たちが「席におかけ下さい」と申し出る必要はないと思われた。

その女性 「トシいったら足元が危ないし座わりはったらええのにねえ。空いてる席があるの言うたげようかしら」
私 「空いてる席があるの知ってはると思いますよ。次の駅で降りはるのと違いますか?」
女性 「始発の駅からずっと立ってはるんよ。私、気になって見てるんやけど、なんで座りはらへんのやろ」
私 「座るより立ってるほうがいいのと違いますか?」
それには答えず また女性は続ける。
 「空いてる席があるの言うたげよ思うンやけど、いらん事言うな言われたらカナンし」
私 「立っていたい理由が何かあるのかもしれませんよ」
女性 「年いったら足元が危ないのになあ。空いた席があるの言うたげたほうがいいかしらん」

この人、どうしても杖の男性を座らせたいらしい。
いったん座ったら、立ち上がるのが大変なのかもしれないし、もしかしてお尻にデキモノがあるのかもしれないし・・・
女性は杖を持って立っている男性が気になって仕方ないらしい
何か言うてあげようか、どうしようかと悶々としながら 私に話しかける。
ついに私の降りる駅がきた。
二人を残して私は電車を降りたのだが、手には読み終えなかった週刊誌・・・。

あの人やっぱり、おせっかいやわ・・・週刊誌読み終えなかったから捨てられへん。帰りの電車まで持って歩かなアカンやんか!

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